#薄木企画あなたへ

今回は真面目ブログです。

11月22日に開催しました自主企画〈あなたへ〉、無事終了しました。この企画に心を寄せてくださった全ての方に感謝申し上げます。

 

私の親友であり尊敬するカメラマン、鳥居美咲による写真とともにこの演奏会を振り返っていきたいと思います。

鳳城昊くんに頼んだ録音録画も素晴らしいものが出来上がっております。年明け以降少しずつ公開します。

 

これは大好きな人たちの集合写真。改めて、なんてメンツなんだ…。

さて。最初に、せっかくなので当日プログラムに載せたご挨拶文を。ご挨拶文というよりもつらつらダラダラと書いたただの文章ではありますが。

 

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 本日はご来場くださり誠にありがとうございます。

 コロナ禍以降人前で話すことが増えました。でも一向に上手くならない。椅子に座って白と黒の木をぽこぽこ叩く方が人に何かを伝えられるんじゃないかと思っていますし、それを信じているがゆえにこうして皆様をお招きして演奏会を開いております。喋りたいことも伝えたいことも山ほどあるのに、こうして文章を整えるのにもウンウン唸りながら時間を溶かす始末。どうにもならないじれったさ。しかし音を介せば、言葉にならないものを無理に言葉にしなくたってあなたへ届けられる。今回も全部全部、音に、曲に託しました。

 この演奏会は、音楽と舞台を愛する仲間たちと共に演奏する喜び・聴く喜びを共有したいという思いから始まりました。全編日本語のプログラムです。母語としてこれらの歌詞を理解できることが、とても幸せです。

 思い出と憧れと好きをおりゃおりゃえいえいと詰め込みました。ちょっと溢れました。

 この企画は、人生の中でシリーズ化していきたいと思っています。願わくば「あなた」とのご縁が続きますように。まだ見ぬ「あなた」へのご縁が広がりますように。

 今日のステージを共に彩ってくれる仲間と、心を寄せてくださる全ての方に心からの感謝を捧げます。

2023年11月22日 薄木 葵

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 して、そもそもこの企画はどこからどうやって生まれたんだいという話ですが。ご挨拶文に書いたことはもちろんのこと、もう少し細かく見るときっかけは複数あります。

 

・モクイジョと月下美人(と、本当は山北混声)の本番を作りたかった。…各団体についての思いや発足についてはまた別の記事で。

・邦人作曲家による日本語曲を演奏したかった。

・合唱って、譜読みして歌って本番してはい終わり!次!が多くない?ちょっと寂しい、レパートリーを持つ作業してみたいと常々思っていた。

・「コンサート」という作品を自分の手で完成させてみたいと思った。

・合唱作品に詳して、でもその作曲家の別の作品のことを知ってる?加えてその生演奏を聴く機会って?私が過去ピアノしか知らなかったように、別の楽器や芸術の形と出会う場所ってものすごく尊いのでは?でもそれを実現する機会は、待つよりも自分で作った方が早くないか?自分の演奏家としての一つの使命はここにあるのでは?

 

 こんなところが大きなきっかけ…。もう少しあるけど、今さっと思いついたのはこれくらいだったので軸はここでしょう。

 そして、その私が当日紡いだプログラムはこちら。

 

 

山下祐加作曲/野呂昶作詞 

同声二部合唱組曲『だれだろう』より「だれだろう」 

うた:モクイジョ - 燦

ピアノ:薄木葵

 

木下牧子作曲/谷川俊太郎作詞

春に(男声四重唱版) 

うた:月一満足アンサンブル〜月下美人

ピアノ:薄木葵

 

木下牧子作曲/やなせたかし作詞 

男声合唱による10のメルヘン『愛する歌』

うた:月一満足アンサンブル〜月下美人

ピアノ:薄木葵

 

大藤史作曲/栗原寛作詞 

女声合唱とピアノのための『あなたへのうた』

うた:モクイジョ - 燦

ピアノ:薄木葵

 

_____休憩10分_____

 

木下牧子作曲

『ピアノのための9つのプレリュード』より 1・2・7・8

ピアノ:薄木葵

 

田中達也作曲/谷川俊太郎作詞

混声合唱とピアノのための『声が世界を抱きしめます』

 うた:月一満足アンサンブル〜月下美人、モクイジョ - 燦、上野学園大学混声合唱団、混声ステージ有志

指揮:中村拓紀

ピアノ:薄木葵

 

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山下祐加作曲/野呂昶作詞 

同声二部合唱組曲『だれだろう』より「だれだろう」 

児童合唱でも歌えるようにと、div.も無く比較的平易な音で紡がれた同声のための組曲の1曲。組曲は「だれだろう」「ねぎぼうずのがくたい」「カサゴ」の3曲からなる。ピアノパートも簡潔ながら、少ない音数で様々に表情を変えていく。

作曲者山下祐加さんのピアノ、田中エミさんの指揮でこの組曲を歌う会(初演)に薄木が歌い手として参加した際に出会い、それ以来モクイジョのみんなに紹介して大切に歌っている。

※曲目解説より。

 

〈あなたへ〉のコンサートの幕開けは「だれだろう」から。

「’あなた’は誰?」という、演奏者側と聴衆側で共に感じ合い解釈し合う物語を狙いました。

この’あなた’は、第三者でなくてもいいんです。自分の中の知らない誰かでも、まだ見ぬ誰かでもいい。もちろん目の前のあなたでも、遠くにいるあなたでも。おーいと呼ぶ、あの声は誰だろう。

 

レパートリーを育てる話をこのコンサートのきっかけの一つにあげましたが、この曲は今回のコンサートでモクイジョの不動のレパートリーとなりました。初舞台は今年、2023年東京都合唱祭。モクイジョの初舞台でもあり、「だれだろう」のお披露目でもありました。

歌い続けること、慣れることの尊さを私は信じています。何せ1ヶ月に1回しか活動しないものだから、1回休むと単純計算2ヶ月の間が空くし、隣の人がいつもいるとは限らないし、新しい人が入ってきたらまたがらりと空気も音も雰囲気もやりたいことも変わるものだし。あと、生きていれば人って多少変わるもので、そういうものを1ヶ月に一度持ち寄って、お互い自分じゃ気付かなかった変化なんかを調和させあったり、たまには「なんか合わないね!」って言ったり。100%うまくいくこともうまくやる必要も無いから、ゆるく集まって真剣に向き合い音を重ねるその蓄積こそが見せてくれる景色を私はこれからもみんなと一緒に目指します。

木下牧子作曲/谷川俊太郎作詞

春に(男声四重唱版) 

本来の四声版よりも、各声部のソリスティックな要素が強まった編曲。二期会21により委嘱され、IL DEVUにより2019年に初演された。今年の東京都合唱祭、9月の仙台での招待演奏でも演奏した大切なレパートリー。

※曲目解説より

 

合唱に日々親しんでいなくとも、中学高校くらいの時に触れたことがある人も多い曲ではないでしょうか。私はその一人でした。…ついに学生のうちに演奏することはなかったけれど。大人になって、ピアノを音楽を職業にするようになってからは幸運なことに何度も演奏機会に恵まれました。

別記事で書く予定ですがモクイジョよりも月下美人の方が少しだけ付き合いが長い(付き合いという言い方が適切かわからないけれど)のと、割と本当にしょうもないわがままで始まった集まりなので、そのいい意味での「身内ノリ」をずっとやっています。「春に」をやろうと言ったのも、言ったもん勝ち!みたいな気持ちからです(みんな快く賛成してくれたけど)。練習の中で、通常の四部編成版と今回演奏した四重唱版を歌い比べてみんなが好きな方、歌っていて気持ちがいい方を選ぶと決めた結果四重唱版を突き詰めることに決めました。

こちらもモクイジョの「だれだろう」と同じく合唱祭で演奏した曲であり、今年の9月、私の故郷宮城県仙台市に招待演奏にいった際も披露した大切なレパートリーです。その仙台の話も書かなきゃ…。これもまた別記事で。

この演奏会の大本命その1。そして月下美人結成に深く関わるこの曲集。

 

木下牧子作曲/やなせたかし作詞 

男声合唱による10のメルヘン『愛する歌』

もともと女声(同声)二部合唱曲集および歌曲集として長く歌われており、その後混声版の誕生を経て2014年に男声四部版が初演された。楽譜にはやなせたかしさん本人によるイラストが挿入されている。月下美人結成のきっかけの曲集。

ー「やなせたかしさんの詩は、物語性があって親しみやすいですが、優しい一面シニカルで、しみじみペーソスも漂います。それが大人の疲れた心に深く染み込んできます。ですから私にしては珍しく、音楽をあまり強く主張せず淡々と詩に寄り添う書き方をしています」(前書きより、木下牧子さんのコメント)

 

  1. ひばり

  2. ロマンチストの豚

  3. 海と涙と私と

  4. きんいろの太陽がもえる朝に

  5. 地球の仲間

  6. 雪の街

  7. ユレル

  8. さびしいカシの木

  9. 犬が自分のしっぽをみて歌う歌

  10. 誰かがちいさなベルをおす

※曲目解説より。

 

「男声合唱」という私がどう足掻いたって到達できない芸術の形、ゆるく集い真剣にアンサンブルを追求してくれる仲間はいないかと半分冗談みたいに個々人に声を掛けたら集まってくれたのが、月下美人という奇妙な団体です。

「(略)私にしては珍しく、音楽をあまり強く強調せず淡々と私に寄り添う書き方をしています」と木下牧子さんご本人のコメントにあるように、非常にシンプルな音の配置になっており、複雑な和声や構成に頼らずとも物語を鮮明に紡ぎ出すこの作品に私は心惹かれました(一つ補足しておきたいのですが、私は複雑な和声や構成は大好きだし、”変拍子は健康に良い”と冗談で発言する程度にはそういう方向の音楽を愛しています)。もう何年前のことでしょう。誰かの演奏を聴いてという出会い方ではなくて、ふとした時に楽譜を手に取ったのだと記憶しています。演奏予定も特にないけれど楽譜を眺めて音を想像して、気に入ったらその楽譜を手元に置く収集癖持ちの自分がいてよかった。楽譜を見れば頭の中で音楽が鳴る人間でよかった。それが、先天的なセンスが無くても後天的に努力によって得られる能力でよかった。

そんなわけでどうしてもこの曲集がやりたくて、しかしここにピアニストこそいても歌い手がいない、じゃあ…となったのが月下美人の大まかな結成秘話です。結成といってもあんまり「グループ」という感じに言い出しっぺの私が思っていないので…という話もまた今度。話の脱線が得意ですなあ、私。

 

プログラム的に次にあたるモクイジョの『あなたへ』もそうですが、曲を単独で演奏する喜びもあれど、全曲演奏する意義と意味を私は強く信じていますし、これからもそれは変わりません。分数制限があるとか、力量的に難しいだとか、そういう場合に「抜粋して良い」というのは良いことだと思うし、それ自体を忌避するものではありません。むしろ、組曲になっているものは絶対に全曲演奏すべきなんだ!と主張してあらゆる可能性を狭めるのは本当に恐ろしいことだと思っています。

しかし多少作曲をやっていた身として、そうじゃない場合ももちろんあるのは知りつつ、無意味な曲を挟んだりどうでもいい曲を入れたり、適当な順番で並べたりは何か特別な事情がある場合以外はしないと思うしそう信じたい(私は作曲に関してプロではないのでその辺りは憶測になってしまうのだけれど)。そして演奏家として、全曲を通した時にしか見えない景色を見にいくというのはなにものにも代え難い喜ばしい冒険でもあります。

 

 

次のブログに続く。

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コメント: 1
  • #1

    まま (金曜日, 29 12月 2023 21:43)

    全曲演奏ってとてもよいなあ。と、ずっと思いながら聴いていました。
    その曲集のページをめくるように歌う人たちは、私に向かってお話を読んでくれているようでした。
    選曲もよかった。何よりことばが素敵な曲ばかりでした。
    歌う人たちはきっと心地よい関係なのだろうとも思いました。よい雰囲気から心地よい歌が生まれ、聴く人を包んでくれたと思いました。
    また聴きたいけれど、きっと一期一会、唯一無二なのだろうとも思います。